ワインと味覚、好みの関係

ピクールからのお便り「ワイン日和」 - IMAGE COPYRIGHT © PCOEUR ALL RIGHTS RESERVED.

◎嫌いなものは、なぜ変わるのか。

モクモクと白い煙が立ち上り、網の上で踊る鮎をふんわりと包んでいく。

炭火に鮎の脂が落ちて、香ばしい香りを運んでくる。

黄金色に焦げ目がついた鮎を頭から噛りつくと、身はふっくらとやわらかく、口いっぱいに繊細な甘さと苦味が広がり、爽やかな余韻へと誘う。

絶妙なおいしさだ。

初鮎の香味に夏の始まりを感じる瞬間だ。

川釣りが趣味だった祖父の影響もあって、幼い頃から鮎が好物だった。

ほろ苦い肝はちょっぴり大人の味。

背伸びをしながら頑張って食べているうち、苦味が気にならなくなったのは何歳だっただろうか。

ずいぶん成長していた気がする。

昔々、嫌いな食べ物を前に「どうしても食べられない」と駄々をこねると、大人たちに「完食が当たり前だ」とこっぴどく叱られた。

そんな経験は、誰にでもある。

嫌いな野菜といえばピーマンや人参、セロリ(これは私の嫌いだった野菜たち)を思い出す人も多いだろう。

泣くほど食べたくなかったのに…。

あの嫌いだった食べものが好きになる瞬間…あれはなんだったの? と不思議に思う。

ただ単に「大人になったから…」と、納得している人もいるかもしれない。

けれど、じつは子供、大人は関係ない。

理由は「味蕾(みらい:舌や軟口蓋にある受容体)」が変わった証し。

いわゆる食育の原点、さまざまな味を経験することによって、味蕾が鍛えられて、味わう力が育まれたことにより、味わいをより楽しめるようになった結果なのだ。

この記事を書いた人は…

AYUMI IKEDA池田 あゆ美

自然派ワイン専門店『ピクール』店主。映画業界、音楽業界、出版業界、IT業界…その時代時代で色濃く表現されるエンターテイメントが好きで、時代のニーズを捉え、それら一つ一つを私は職業としてきました。当時、男性社会と言ってもいいほどの厳しい業界をがむしゃらに走ってきたせいか、身体はボロボロ…。そんなときに訪れた地中海で「食卓」から生まれる人生の楽しさや豊かさに感銘を受け、今のナチュラルワインの仕事へと導かれていきました。ワインだけでなく、食、旅、音楽、映画など、一見関係ないジャンルの感性も大切にして、ワインを選ぶようにしています。ワイン通信販売、業務用卸売、ワインコンサル、セミナーなど、様々なニーズに丁寧にお応えします。