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【今回のワイナリーは…】
マルク テンペ / Marc Tempé
【生産者は、こちらの方…】
マルク テンペ / Marc Tempé
草も茫々と生える足元の土は、驚くほど柔らかくフカフカとした感触だ。ブドウ樹の緑の息吹く香りとともに、樹の合間を風が流れ、疲れを吹き飛ばしていく。
ビオディナミ農法の畑には、たくさんのテントウ虫や蝶などの昆虫が生息していて、空にはコウノトリがワッサワッサと飛んでいる。
明らかにエネルギー溢れるその畑は、伸び放題で、まったく手入れをしていないようにも見える。
けれど、健全なブドウを作ることで、その土地や品種の個性を最大限に引き出そうと努力する彼の手は、土に染まり、グローブのようにゴツゴツと大きく、怪我が耐えないことを私は知っている。
テンペは、土地の個性を引き出すための唯一の思想であり手段がビオディナミ農法だと考えている。
「ワインを造る僕の仕事は、画家が作品を描くようなものだ。キャンバスに色を塗って仕上げる、その色使いや色というのが、テロワール(地質、気候、風土など)なんだよ」と、テンペ。
土を耕して、空気を与え、土のなかの微生物の活動を活発化させる。
そうすることで、ブドウの根がより深く伸び、土中の深くにあるミネラル層まで達して、年月とともにさらに根を伸ばす。
化学肥料や殺虫剤に一切頼らずに自然界のリズムを尊重するビオディナミの概念は、人で例えれば病気になってから薬を与えるのではなく、植物自体が病気になりにくい体質を作り、治癒力を高めるということ。
それは、自然とともに共生するという考え方に基づいているけれど、決して自然のまま放っておけば良いという訳ではない。
その農法を継続することによって、徐々に病気になりにくいエネルギーのあるブドウ樹に育てていくのだ。
この地域「Riquewihr」の天気
現地時間 4/16 03:52 計測
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04:38
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16 Rue du Schlossberg, 68340 Zellenberg, France
だから、自然が与えてくれる情報をもとにつねに畑の状態に気を配り、ブドウの樹々が何を欲しているのかを感じながら、畑の手入れをする。
そして、土中深くに伸ばした根は、その土地の味わい、個性をしっかり吸って、ブドウの果実を実らせる。
「この畑は、ブドウ自体に力が備わり耐性を持ったから、もうコンポスト(堆肥)の力を必要としなくなったよ」と、教えてくれた。
前回、訪問したときには、コンポストを使用していたから、数年の間に植物がエネルギーを蓄えたということなのだ。
自然の力とテンペの日々の作業の積み重ねを思い、その進化に感動を覚えた。そして、畑にたくさんの昆虫たちを見つけて訊ねた。
「いつもこんなにたくさんの昆虫たちと仕事をしてるの?」
「そうだ、晴れた日は昆虫たちも日向ぼっこをしたいんだよ。雨が降る前には、帰っていくから、お天気を教えてくれる大切な相棒さ」
テントウ虫が飛び立っていった。
「通り雨が来るかもしれない。蔵に戻ろうか」
カーヴに戻り、樽出しのワインで喉を潤す。芳醇で柔らかな果実の液体に心も身体もほどけていく。
この地を代表する品種リースリングは、気品漂う白い花の香りで、アロマオイルのように、その華やかな香りで私の心を落ち着かせてくれる。
繊細な果実味とミネラルがカラダのすみずみに染みわたり、幸福感に満たされた。その瞬間、味覚だけでなく、思考や心の感じ方まで敏感に研ぎ澄まされていく気がした。
自然のエネルギーと土地の個性をたっぷりと含んだワインの味わいは、優しく私の疲れを癒し、肩の力を抜いてくれる。
地球に呼吸を合わせてみると、生き急ぎ、焦ることもなくなるよ…と、私に伝えてくれるようだ。
テンペのようにおおらかでユニーク、それでいてどことなく真面目さも感じられるワイン…
そして、必ずあのおとぎの国のようなアルザスの街の風景とブドウ畑に誘ってくれるに違いない。日常の雑踏や忙しい毎日から抜け出したい…
そんなときに安堵感と癒しを運んでくれる、それがテンペのワインなのだ。